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ニッポンのみなさま、トヨタ センチュリー発売の時間です。

第45回東京モーターショー2017。トヨタブースの片隅で小山のごとき漆黒のボディは妖しく光っていた。そのクルマの名はセンチュリー。静かで揺るぎない。特殊な威圧感を持つニッポン独自のセダンがついに3代目となり発売された。今回はそれを記念し、長年ニッポンのキーパーソンを運び続けてきたクルマの痕跡をヤフオク!の中から探し当ててみようと思う。
粛々と謎めき続けるクルマの正体

粛々と謎めき続けるクルマの正体

一部のマニアを除き、人々はセンチュリーのことを気にしたことがあるのだろうか。
テレビのニュースなんかでシュルシュルーっと建物の車寄せにすべりこみ、恭しくえらい人々を吸い込んだり吐き出したりしているあの黒いクルマのことを「ああ、センチュリーなんだな」と思っている人はそうそういない気がする。

権力を運搬する装置。こう書いてしまうと身もフタもないのだが、人々はなんとなく「クルマ」とは違うフォルダにフワッと格納しているんじゃないかと思う。
とにかく存在が謎だ。多弁なクルマ好きもセンチュリーの話題になると途端に無口になる。

当然だ。自動車購入ガイドに値引き情報はないし、試乗レポートもない。
マンションの隣の美人妻に朝バッタリ会ったとき「最近ヴィッツから乗り換えましたの」と耳打ちされたこともないし。

だから、いざセンチュリーのことを考え始めると人々は疑心暗鬼になる。
曰く購入するために特殊な面接や体力テストがある。曰く収入を証明するなにかが必要だ。曰く寺に入って高僧のありがたい話を聞かなければいけない等々。
これだけ情報が溢れている世の中にあって、センチュリーだけは異様に情報量が少ないからこういうことになる。

落ち着こう。
怖がらず、センチュリーが新しくなったこの機会にこの記事を読んで正しく理解を深めれば、突然出くわしたとき慌てずに済む。
大丈夫。ニッポンの謎セダンは思っているよりやさしく、おもてなしの心が溢れているのだから。

 

  

はじまりはクラウンから

はじまりはクラウンから
1960年代初頭。
2代目がちょうど登場した時期のクラウンは、現在で言えばレクサスLSを所有するような富裕層の個人オーナーやタクシー・ハイヤー需要に応える形で一定の成功を収めていた。

だが、トヨタはさらに拡販を目論む。
当時、アメリカ製の巨大なセダンがシェアを占めていた大企業の社長や官公庁のお役人を乗せる、いわゆる「運転手付き」のクルマ市場を奪おうと考えたのである。
しかし、普通のクラウンでは威張りが効かない。

そこでトヨタは1964年、2代目クラウンの全幅や全長を伸ばし、堂々としたプロポーションを与え、さらに日本初の2.6リッターV型8気筒エンジンを搭載した「クラウン・エイト」を発売。約3年3ヶ月のモデルライフの中で総理大臣 佐藤栄作の公用車として採用されるなど、輝かしい実績を残した。

そして迎えた1967年はトヨタの創業者・豊田佐吉の生誕100年、さらに1968年は明治100年にあたる。その「輝かしい1世紀」を記念し、クラウン・エイトの後継として誕生した最高級セダンに「センチュリー」と名付けたのである。

引き継がれるヘリテージ

引き継がれるヘリテージ
あくまでもこれは推測だが、バブル経済後の疲弊した国内事情とトヨタ セルシオの登場により、すでに旧態化していたセンチュリーの存続は危ぶまれていたのではないかと思う。

ライバルの日産 プレジデントは1990年、インフィニティQ45のパーツを流用した形でモデルチェンジを実施していたのだから同様の手法も採れたはずである。

しかし2代目センチュリーはイチから設計をやり直し、30年に渡る職人による手作業の生産を継承しながらも、誰がどう見てもセンチュリーと認識できるフォルムを纏って1997年に登場した。

なによりも新しかったのは、日本の乗用車で初めて5リッターV型12気筒エンジンを搭載したことだろう。
パワーや静粛性向上は当然ながら、エンジンそのものが故障しVIPが人里離れた路上で立ち往生するなどの不手際が起こらないよう、燃料ポンプを2系統に分けるなど、まるで航空機を思わせる高度な対策には鬼気迫るものを感じる。

しっとりととろけるような塗装は「鮮映性」という独自の基準で専門検査員がチェックし、完成した車両はすべて50kmの実走行テストを実施。
採用面積が増えたインテリアのウッドパネルは美しい部分だけを選び、寸分の狂いもない木目合わせを行うなど、きめ細やかな工夫が施されていた。

そのほか「和」の発想を感じさせる装備もセンチュリーらしい。
先代同様、後席の住人の足運びを邪魔しないよう床面の段差をフラットにしたり、車内で靴を脱ぐことを考慮して靴べら格納ポケットを装備するなど、和室の暮らしをしていないと浮かばないおもてなしの工夫がそこここに施されている。
シートに按摩機能が装備されているのも日本の温泉旅館っぽくていい。

そして20年間。初代から続くおもてなしの心を継承しながら21世紀をコツコツと生き抜いていくのであった。

さて、冒頭の「センチュリーは買えるのか?」という疑問。正解は「買える」だ。 もちろん購入者の支払い能力の判断(与信審査)は行われるがディーラーでの商談は可能である。
少なくとも寺で僧のありがたい話を聞く必要はなさそうだ。

それでも購入できないセンチュリーは存在する。
トヨタ社内で「大きな車」というコードネームが与えられていた皇室専用の御料車「センチュリーロイヤル」はどんなセレヴでも手に入れることはできない。
ちなみに標準車は5250万円、防弾仕様の特装車は9450万円とのことである。

リビングで愉しむセンチュリー

場合によっては運転手を探すところから始めないと格好がつかない本物のセンチュリー。気後れするならばミニカーやカタログでセンチュリーを嗜み、手の上で弄びながら天下国家の未来をあれこれ想像する楽しみ方はいかがだろうか。

あとがき:神威(かむい:ブラック)、摩周(ましゅう:濃紺)、精華(せいか:シルバー)、鸞鳳(らんぽう:グレー)……まるで流行りの子供の名前か、はたまた東洋医療のツボの名称か。センチュリーのボディーカラーのネーミングセンスには毎度グッとくるのです。(見習いYT)

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